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前回に引き続き、 ご顰蹙と怒号にお応えして(爆) 今回は、 インヴェンション第1番の第2部(7〜14小節)を調べてみます。 この部分はおよそ第1部(1〜6)の 右手と左手を反対にしたような 構成をとっています。
第1部分(7〜10小節) 第1部の第1部分(1〜2小節)に対応 第2部分(11〜12小節) 第1部の第2部分(3〜4小節)に対応 第3部分(13〜14小節) 第1部の第3部分(5〜6小節)に対応
まず、これを押さえてください。 素材の面から見るとこの第2部(7〜14小節)は 第1部(1〜6小節)のかなり忠実な繰り返しなのです。 でもただ繰り返すだけでは能がありませんね。 実際、 あるフレーズを全く同じに繰り返すのは 「退屈」以外の何物でもありません。 偉大なチェリストであるパブロ・カザルス曰く、
「作品においては全てが許される、 ただ許されないのは退屈であることだ」
(ヴァルター・コルネーダー著/角倉一朗訳 「通奏低音の奏法」p.153,音楽之友社,1987)
おおっと、脇道にそれました・・・(^^;)。
そういう訳なので、
この第2部分では、
「第1部分を繰り返しつつ、
いかに変化が与えられているか」
という点に着目していきたいと思います。
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調の経過を見てみましょう。 第1部では主調のC-dur(ハ長調)から 属調(Dominant)のG-dur(ト長調)へ転調していました。 この第2部はそれに対して、 G-dur(ト長調)から a-moll(イ短調)へ転調しています。 あれ?第1部と違いますね。 第1部をそのまま繰り返したら G-dur(ト長調)からはD-dur(ニ長調)に 行くはずです・・・。 ウウム、 どこかに巧妙なからくりがある、 そしてその「からくり」が、 第1部の模写であるこの第2部を、 ある意味で第1部と全く違った物にしているのです。
第1部分を見てみます。 第1部の対応する部分 (1〜2小節)と比較してみると、 共通点、 相違点がよく分かると思います。
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最初の2小節は、 ほとんど左右ひっくり返した「だけ」ですね。 敢えて違いを探すとすれば、 1〜2小節の左手は、 8分音符のオクターブ跳躍がありますが、 7〜8小節目の右手には このオクターブ跳躍が無いことです。 1〜2小節の左手は、 「低音」としてC-dur(ハ長調)の和音を しっかり確保する必要があったため、 属音Gを跳躍させて強調したのだと思います。 ところが、7〜8小節を 全く1〜2小節と同じにして、 右手をオクターブ跳躍させると、 高音が騒々しくなり、 左手の主要音形(A)がかき消されてしまいます。 さらにこの部分ではオクターブ跳躍させて属音を強調しても、 もはや何の意味もありません。 (第2小節目の場合、 冒頭の低音にオクターブ跳躍を入れても 上声部の(A)がかき消されると言うことはありません。 低音部と高音部の本質的な性格の違いです。) 何を細かいことを、 とおっしゃるかもしれません、 でも こういうところに注意を払うのも 大切なことだと思います(^-^)。 9〜10小節(楽譜で黄色く示した)は 新しく追加された部分です。 この部分は先行する7〜8小節と そっくりそのままの構造を持ちつつ、 (A)の反行形(inversion of (A))を導入しています。
この追加された2小節、およびその周辺は、 実に巧妙な構造を持っています。 それを詳細に解剖する前にまず、 これに続く第2部分(11〜12小節)を示してみます。
これはもう、 第1部の第2部分(3〜4小節)の左右の手を 「機械的に」ひっくり返しただけですね。 (前のページの2番目の楽譜をご覧ください) 右手には音形(A)の前半の拡大形がおかれ、 左手には音形(A)の反行形が連続して用いられています。 5度上の調へ転調する経過のしかたも同じです。 第1部ではC-dur(ハ長調)からG-dur(ト長調)へ 転調してますが、 第2部のここでは、d-moll(ニ短調)から a-moll(イ短調)へ転調しています。
さて、これを踏まえて、 先ほどの2小節の追加の意味を 考えてみることにしましょう。 まず、 調性の面から見るとこの追加2小節で、 G-durからd-mollへの 転調がはかられています。 すなわち、「第1部分」の音形、 構造をもってはいますが、 第1部の第1部分(第1〜2小節)、 にみられた「調性の確立」と 言う意味合いは この追加2小節については全く存在していません。 むしろ、 性格的には第1部の第2部分(第3〜4小節)に見られた、 「経過的、 展開的」色彩の方が強いのですね。 次に、 以下の楽譜をご覧ください。 この追加2小節の近辺の音形(A)およびその反行形を抽出した物です。
第1部分の4小節間〜第2部分の冒頭へ向けて、 音形(A)が次第次第に上昇していく 「連鎖」が見て取られます。
(もし第1部分を忠実に模写すると、 第8小節後半の右手の音形(A)は D(レ)の音から始まる筈なんです。 この「変更」にもお気づきだったでしょうか? 第8小節の後半の右手を 敢えてA(ラ)の音から始めているために、 全体が一本の上昇線になっているんですね)
特に9小節、 10小節、 11小節(第2部文冒頭小節)の左手は、 音形(A)の反行形を1小節ごとに1音ずつ上昇させていますね。 これによって第1部分と第2部分は 非常に強い結びつきを得ているのです。 「追加2小節」の目的の1つとして、 この、 「第1部分と第2部分を強く結びつけること」 を挙げることができます。 こうしてみると「追加2小節」の音形が(A)の正常形ではなくて、 (A)の反行形なのは、 実はあとに続く第2部分への予示でもあった訳なんです。
この、 第7〜12小節の部分、 前のページに挙げた第1部の対応部分と比較すると、 以下の特徴をあげることができます。
本ページで取り上げている「第2部」と、 前ページで取り上げた「第1部」、 その音形構造はほとんど一緒なんですが、 性格は両者で大変異なってきています。 第1部分と第2部分の密接な結びつきによって、 本来第1部分が持っていた 「主題呈示、調の確立」という性格は 消え失せ、 第7小〜12小節までの全体が 「転調的・経過的」性格、 さらにいうなら「展開部的」な性格を持つことになるのです。 この性格の違いをもたらしたのは 第8小節〜第9小節のわずか2小節の挿入、 まさに「マジック」です!
第2部の第3部分は、 以下のようになっています。
![[Invention 2-1 bar. 13-14 (Note9.gif 2.53KB)] [Invention 2-1 bar. 13-14 (Note9.gif 2.53KB)]](Inventio/2-01/Note9.gif)
左手は、
最後の小節の後半を除くと、
第1部の該当部分
(5〜6小節)
の右手と全く同じ動きをしています。
これに対する右手は
第1部の該当部分とは
ずいぶん異なった動きです。
第1部の該当部分に見られた 32分音符はここには存在していません。 しかし、第1部の該当部分 (5〜6小節) とくらべると、 よりこちらのほうが高揚感が 増しているといえます。 16文音符の絶え間ない使用、 および高いh(シ)音の存在です。 両手が16分音符で同時に動くのは 全曲中でここだけです。 また、 ここに出現した高いh音は、 これまでで最高の音位です。 第1部の該当部分も高揚感を増すような形をしていましたが、 こちらのほうが よりクライマックスに相応しい動きと言うことができます。
ここで、 この第2部全体の流れを見てみましょう。
ごらんのとおりです。 外形は第1部の構造を保ちつつも、 各部分の性格の対照性はむしろ薄くなり、 部分間の結びつきが強くなっています。 第2部全体で、 「展開部」の色彩がぐっと強くなっている のがおわかりかと思います。
さあて、次は第3部(第15小節〜曲の最後)です・・・、 が、 その前に一息入れましょうか・・・(^-^)。 第3部も色々おもしろい仕掛けがあります。 請うご期待・・・。
※文中の楽譜は "MusicTime Deluxe for Windows 3.1 and 95"((C) 1996 Passport Designs Inc.)にて作成したものを ビットマップ化したものです。