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「グローリア日記2005」番外編
J. S. Bach "Magnificat(BWV 243)"から"4. Omnes Generationes"の管弦楽総譜

さて、これからバッハの「Magnificat(BWV 243)」の中の「4. Omnes Generationes」と付きあってみましょう。

目標は管弦楽總譜を眺め倒して、楽器使用法を把握すること、或いは、演奏する各人が、「自分のパートがどのような位置づけになっているか」「自分のパートと同じ役割を演じているパートはどこか」等を把握することです。

この曲はかなり複雑な楽器構成のように見えますが、少し整理するとかなりすっきりした編成になっていることが分かるのです。管弦楽総譜を読む材料としてはかなり易しい部類に属します。今回、この曲を取り上げて「管弦楽総譜とはこんな物だ」と言うことをお見せしたいと思います。

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まずはその管弦楽総譜。

[總譜はこちら(Omnes_Generationes.pdf, 389,996バイト。pdfファイルです)]

いやあ、参った、はっきり言ってごちゃごちゃしてる。読みかたがよく分からん、という人も多いのでは?この曲は比較的錯綜した対位法的構成によって書かれ、器楽と声楽の対応関係も一見不明瞭です。でも、ここでちょっと辛抱して、楽譜を整理していきましょう。

登場するパート

まず、この総譜に記されている楽器のおさらいです。

Flauto traverso I, Oboe I, Soprano I 第1フルート・第1オーボエ・第1ソプラノ

突然ですが、上の總譜から、第1フルート(Fl.I)、第1オーボエ(Ob.I)、そして第1ソプラノ(Sop.I)だけを取り出してみます。

[楽譜はこちら(Fl1_Ob1_Sop1.pdf, 196,692バイト。pdfファイルです)]

これを見ると、この3パートはほぼ同じ動きをしていることが分かります。(21小節以降のアカペラ的な動きは別です)。第1フルートだけ少し外れることがありますが、これは主に音域上の問題です。一方、第1オーボエと第1ソプラノは全くといって良いほど同じ動きをしており、両者の間で異なった音符を見つけるのが難しく思われるほどです。本質的に、この3パートはユニゾンだと見ることができるでしょう。

Flauto traverso II, Oboe II, Soprano II 第2フルート・第2オーボエ・第2ソプラノ

次いってみます。第2フルート(Fl.II)、第2オーボエ(Ob.II)、そして第2ソプラノ(Sop.II)だけを取り出してみます。

[楽譜はこちら(Fl2_Ob2_Sop2.pdf, 200,403バイト。pdfファイルです)]

これまた見事なユニゾンです。第2フルートは例によって樂器の音域の關係で少し外れていることがありますが、基本的に3つとも同じ動きです。特に第2オーボエと第2ソプラノの間のユニゾンは、上で見た「第1オーボエ…第1ソプラノ」同様、徹底しています。(21小節以降のアカペラ的な動きは除外します)。

Violino I, Alto 第1ヴァイオリン・アルト

さて、木管はソプラノI,IIとの対応が見つかりました。次、弦樂器に進みます。第1ヴァイオリン(Vln.I)とアルト(Alt.)、の関係に注目すべきでしょう

[楽譜はこちら(Vln1_Alt.pdf, 196,938バイト。pdfファイルです)]

例によって21小節以降のアカペラ的な動きは除外しますが、それ以外の場所では、おおむね第1ヴァイオリンはアルトの1オクターブ上を正確になぞっています。楽譜上で四角で囲んだ部分は、第1ヴァイオリンとアルトがユニゾンもしくはオクターブで動いていると見なすことができる場所です。両者の動きが一致していない場所は、例えば第1小節後半、第4小節後半(第1ヴァイオリンが単独で主題を投入するように見せかけている)、第6小節後半、第9小節(A-dur(イ長調)のカデンツ(終止形))などです。また、1オクターブのずれが無く実音で一致している箇所(第16小節後半~第17小節)もあります。いずれにせよ、第1バイオリンとアルトは本質的に1つのパートとして構成されています。

Violino II, Tenore 第2ヴァイオリン・テノール

第2ヴァイオリン(Vln.II)は、テノール(Ten.)に対応します。(例によって21小節以降のアカペラ的な動きは除外します)

[楽譜はこちら(Vln2_Ten.pdf, 204,968バイト。pdfファイルです)]

おおむね第2ヴァイオリンはテノールの1オクターブ上に一致しています。楽譜上で四角で囲んだ部分が、第2ヴァイオリンがテノールとユニゾンもしくはオクターブで動いている箇所を示しています。(テノールのト音譜表は、記音よりも1オクターブ下を発声することに注意してください。)ただしその対応はこれまでの女声部ほど正確ではありません。特にテノールがメリスマを担当する部分でしばしば第2ヴァイオリンと離れた動きをしていることには注意しておく必要があります。しかし、主題が投入される箇所を中心にして、テノールと第2ヴァイオリンが同じ動きをしていることは明らかです。

Viola, Basso(Chor.), Basso Continuo ヴィオラ・合唱バス・通奏低音

残りの樂器はヴィオラ(Vla)と合唱バス(Bas.)、そして通奏低音(Basso Cont.)です。合唱バスの開始は明らかに通奏低音の開始とユニゾンですが、これ以降常にそうだというわけではありません。むしろ、ヴィオラとのオクターブも考慮しなければなりません。

[楽譜はこちら(Vla_Basso_Cont.pdf, 234,568バイト。pdfファイルです)]

四角で囲った部分が、器楽が合唱バスをトレースしていると考えられる部分です。通奏低音が合唱バスと一致するときは、おおむね実音、もしくは1オクターブ下で対応しています。しかし通奏低音と合唱バスが常に一致しているわけではありません。そして、合唱バスが通奏低音と異なっているときには、ヴィオラが合唱バスとユニゾンだったり、あるいは合唱バスの1オクターブ上をなぞっていることが多いのです。この点にも留意すべきでしょう。

Conclusion of Groupings of Instrumentation パートのグループ化のまとめ(^^;)

以上のように、この管弦楽構成は、

という具合に、およそ「合唱5声体」の構成に器楽を絡めた物だ、と見ることができます。

Addtional Comments 補足

上記の中のいくつかの箇所で、特にアルト~合唱バスや、第1ヴァイオリン~通奏低音の範囲において、声楽パートと器楽パートの音符が一致しない場所が存在しています。これについては実際には更に考察が必要です。

例えば、テノールが第4小節目後半から第5小節目にかけて見せるメリスマは、第2ヴァイオリンと全く異なった動きをしています。しかしこのテノールの動きは、実は、通奏低音とユニゾンなのです。これと同じ現象が12小節前半でも発生しています。また、アルトは第6小節後半で第1ヴァイオリンとは異なった動きをしますが、このとき実は第1フルートがアルトに付き添っています。第9小節では、アルトの動きはヴィオラがサポートしています。(これらは総譜で確認してください。)

このように細かく追求することで、更に樂器と声楽の音符の一致は明白になり、声楽の音符のほとんどは器楽のユニゾンやオクターブでサポートされているのを知ることができるのです。が、まずは上の基本的な一致をおさえておいて、それから外れたときに、他のパートが代替的にユニゾンになっていないかを調べるのが、早道ではないかと思います。

いずれにしても、この曲では楽器は合唱との一致(コラ・パルテ(colla parte)を強く指向しており、声楽と器楽の線的な融合が計られています。自分が担当するパートと一致する動きを見せるパートがどこかを調べることは、この曲を把握する上で甚だ有意義なことだと思います。さらには、曲そのものの構成の把握への手がかりを得ることができるのではないでしょうか?簡單ですが、とりあえずこの辺で…(^^)

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